4月15日の日曜日に、日帰りで福島競馬場へ行ってきました。
15日の福島10Rに出資馬マイネノーブレスが出走したのです。幸い予定が何もなかったので、たかだか数時間の滞在のために、新幹線で往復するという贅沢な日曜日を過ごしました。
震災以後、福島競馬が再開されたら、一度は行きたいと思っていました。その気持ちを大きく膨らませてくれたのが、今年3月5日(月)に発売された、競馬専門誌『週刊Gallop』3月11日号でした。
この号でGallopは、4月7日に競馬開催を再開する福島競馬場の特集を組みました。現場の責任者の言葉を丁寧に拾った現地レポートは、東京で暮らすやや不真面目な競馬ファンの背中を押してくれました。
本当は、写真も含めてこの特集をすべてご紹介したいところなのですが、ひとまずここでは文章の一部を引用します。
(以下引用)
当日は地震発生の直後から続々と競馬場に避難してきた被災者を受け入れた。職員が臨機応変に対応し、普段は騎手が利用している調整ルームや厩舎関係者の居室などを一時避難所として開放した。市内が断水になると、場内の貯水槽にある水を市民のために提供。5月にも福島第一原発の事故によって計画避難区域に指定された飯館村の被災者を受け入れるなど、できる限りの支援活動を行ってきた。
そんな中、関西の競馬ファンから手作りの横断幕が届く。思いのこもった、たくさんのメッセージによって描かれた『HOPE』の文字に職員たちは勇気づけられた。
復旧工事の着工を前に、6月からは各所の除染作業を開始。場内全域の放射線量低減策に取り組んだ。「場内のファンエリアや厩舎地区はもちろん、コースの芝を張り替え、ダートコースに至ってはクッション砂も含めて全周の砂を交換しました。現在も毎日のように作業を継続しているし、福島市内の除染は競馬場が最も進んでいると思います」と都田課長(引用者注:福島競馬場施設整備課長)は胸を張る。
(中略)
都田課長はスタンドの安全性が向上したことを力強くアピールする。
「あとは県外からどれだけのファンが足を運んでくれるのか…。心配なのはそこだけです。実際、われわれも放射能の問題が出たときは、福島競馬場が存続できるかどうかを考えなければならない状況になりました。当然、再開への強い気持ちを持って取り組んできましたが、いろいろと考えさせられる時期もありました。そんな中、土川健之理事長が早い段階で視察に訪れて再開の意思を示してくれたことは私たちの活力になりました。安全かどうかというのは個々の判断になりますが、やるだけのことをやってきましたし、放射線量も安心して来ていただける数値に落ち着いていると言いきれます。たくさんのお客さんが入ってくれるような状況になってほしいですね」
(引用終わり)
初めて訪れる福島競馬場は、いいお天気だったこともありますが、とても明るくて親しみやすい雰囲気の競馬場でした。新幹線の福島駅からバスで15分(バスの運転手さんとお客さんとの何気ないやりとりが楽しかった)。東京競馬場の豪華で広々とした雰囲気もいいのですが、地方の競馬場のコンパクトさには別の魅力があります。とにかく、東京や中山などと比べると馬がぐっと近く感じられます。
マイネノーブレスは、結局3着と頑張ってくれました。優勝の記念撮影に参加するもくろみは外れましたが、それでも馬券は一応プラスになったし、色々とこの先が楽しみになるレースをしてくれました!
往復の新幹線の中では、さすがに色々なことを考えました。
「競馬どころじゃないだろう」という声もあるかもしれません。「その金と労力を他のことに回すべきだ」という批判を受けたら、私には上手く反論できない気がします。
でも、やはり行ってよかったと思っています。
私にとって福島競馬場で過ごした日曜日の数時間は、東京や中山や京都の競馬場で過ごす数時間と、基本的に変わりませんでした。そこに特別なことは何もありません。遠方から訪れた競馬ファンの目で見る限り、当日の福島競馬場の雰囲気も、ほぼ、見慣れた日曜日の競馬場のそれでした。そのことにほっとしました。
ただ、福島の競馬ファンはこの「普段の日曜日」を味わうために1年5カ月も待たなくてはならなかったのだ、ということはどうしても頭を離れませんでした。その原因の一端である原発には、間接的にせよ私も関わってきたのです。そして、事故が収束していない今、この風景はいつまた奪われてしまってもおかしくないのです。
多分、多くの人にとって日常というのは結構くだらないものでしょう。少なくとも私はかなりくだらない日常を送っています。でも、くだらないからといって奪ってしまってもいいというものでは絶対にありません。
競馬がくだらないと言いたいのではありません。何かを大事にするのは必ずしもそれが高尚なものだからではない、ということです。たとえば競馬は美しいスポーツだから大切に残そう、ではない。福島は素晴らしいところだから好きよ、ではない。順序は多分逆なのです。好きだから、愛しいから、大切にしたいから、美しく素晴らしいのだろうと。
そんなことを、私は競馬場でようやく実感できた気がするのです。
首都圏の中山競馬場で行われたGⅠ皐月賞を福島競馬場のモニターで観戦した酔狂な私たちは、あのシンディ・ローパーも熱烈にオススメしていた福島の日本酒(シンディは特定の銘柄を推奨していたわけではなかったと思います)をぶら下げて帰路に付きました。
競馬場に掲げられた「明日への一完歩」の大きな看板。陳腐で安易かもしれないけど悪くないコピーです。陳腐で安易だけど悪くない日常のように。