というわけで、またしても沖縄に行ってきてしまいました。
NAHAマラソン完走から半年。
今回も当然ながら普通の意味での観光ではありません。
沖縄は私にとって、「癒し」を求めに行く場所ではありません
(「脱力」を期待して行くことはありますが)。
それにしても、今回ほど「癒し」と対極にある旅行はありませんでした…。
ピリピリと張り詰めた雰囲気の沖縄。
…皆さん、想像できますか?
私は実際に行くまではどうもイメージできませんでした(笑)。
えー、今回の旅行の目的はこれ。
参加したのではありません。応援に行ったのです。
ちなみに私は沖縄民謡はなーんにも分からないど素人です。
唄三線についての専門的なことを語るのは当然ながら無理ですし、
このブログを読んでくださっている方々の誰も、
そんなことを期待しちゃいないと思います。
というわけで、以下はごく珍しい沖縄観光をする機会に恵まれた者の、
旅の雑感としてお読みください。
さて、そもそもこの「民謡コンクール」というイベント。
最初に聞いたときは「コンクールってすごいなあ、佳作とか金賞とか出るのかな」
とか思っていたんですが、どうやらそういうことではないようです。
えーと、私の経験で一番近い例えをやや強引に上げますと、
スキーのバッジテストと大体同じもの、と言えるのではないかと。
新人賞、優秀賞、最高賞、大賞といった部門があり、
それぞれの受験生が審査員団の前で課題曲を一曲唄って演奏し、
その唄と演奏がそれぞれの部門の一定のレベルに達していれば合格する、
というものです。
昇段試験のようなものかな?
審査の仕組みも単純で、本番一発勝負の減点方式。
そのためか、素人の無責任な印象ではありますが、
むしろスポーツの競技会に近い雰囲気を感じました。
当然ながら、たとえばフィギュアスケートとか、体操とか、
そういう「美しさ」を問われる競技ではあるわけですが。
会場となった西原町の公民館は、一種異様な雰囲気でした。
新人賞170人余、優秀賞90人余、最高賞40人弱、大賞9人。
この人々の審査が一気に行われるわけです。
具体的には、金曜日から日曜日まで3日間、
朝の9時すぎ、遅くとも11時前から、夜は7時や8時まで、
昼休みと若干の休憩を挟んだだけでほぼぶっ通しです。
審査する先生方の体力・集中力は超人的だと思いました。
まあ、その3日間ずーっと会場に缶詰だったわけでは
当然ながらありませんでした。
受験生の方々は同じ門下生同士、控え室(と称した畳の大広間)に
それぞれグループである程度のスペースを陣取って、
そこに受験生が思い思いやってきて、くつろいだり、準備をしたりしています。
しかし、三味線を手にした(中には半襦袢とステテコ姿の)人々が、
大地震の避難所のような(失礼)場所に大勢たむろして、
練習したり、おやつを食べたり、昼寝をしたりしている様子は、
まるでお祭の日に台風がやってきたような非日常的な光景でした。
ま、こんな感じです。
それでも、控え室はまだ雑然とした脱力感がありますが、
会場に入るとその緊迫感たるやすごいものがあります。
審査員の先生方の後ろにはパイプ椅子が並べてあって、
関係者や一般の人など自由に聴くことができるようになっているのですが、
当然ながら携帯や私語はご法度。拍手もダメです。
写真撮影も禁止。最初の写真はリハーサル風景です。
かなり大勢の沖縄の人々が、この極度に張り詰めた雰囲気の中で、
ただ黙って民謡を聴いているという異様な場面を目撃する羽目になりました。
でも。
こう書くと「物好きな」とか言われそうですが、心底、このイベントは面白かったです。
同行者には「ある意味でこれ以上『沖縄』が感じられるところは滅多にないかも」
と言われて、ほいほいと(不謹慎にも)観光客気分で出かけたのですが、
まさしく、「これも沖縄」と実感しました。
私はもちろんぶっ通しで聴いていたわけではなく、
同行者の同門の方々を中心に、前後の人たちの唄と演奏も聴く、という感じでしたが、
それでも、たとえば
「この人は随分緊張しているなあ」とか、
「この人の声はすごく高いなあ」とか、
「同じ課題曲でも歌い方が色々違うんだなあ」とか、
そんなことをとりとめもなく考えながら聴いているうちに、
何だか自分の中に「民謡を聴くリズム」みたいなのが生まれてくるのです。
知らないなりに、綺麗な曲だな、とか、切ない感じの節回しだな、とか、
そんな感想を抱くようになってきます。
そこへ、それぞれの受験生の必死の想いが上乗せされて、
なかなかこう、おざなりに聴いてはいかんぞ、という気分にさせられます。
自分の人生でかつて味わったことのない、貴重な経験でした。
幸い、応援の甲斐あってか(?)、同行者は無事最高賞に合格しました。
受験の前日にホテルの近くの公園で課題曲を聴かせてもらったとき、
ああ、自分は今間違いなく沖縄にいる、という、
不思議にリアルな感覚を覚えたのが妙に印象に残りました。
沖縄の唄の世界の入り口の前を、ふと横切った瞬間だったのでしょうか。
その公園では端正な猫が一緒に唄を聴いてくれました。
この島では野良猫の方が私より民謡に造詣が深そうです。
いや、実際のところは、どうやら我々が彼(彼女?)の縄張りを
占拠してしまっていただけのようですが…。